『溺レる』川上弘美
川上弘美さんの『溺レる』という短編集。私の寝ているベッドとマットレスの間に挟まっていました。いつだったか、買ったはずなのにないなぁ…と、思っていたんですよね。
表紙が折れ曲がってしまって、なんだか本に申し訳なくなりましたが、こうして見つけて、また読むのでどうぞご勘弁を。だって、本棚の後ろの列にしまっちゃった本なんて多分向こう3年間は日の目を見ることがないと思いますから。
- 作者: 川上弘美
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2002/09/03
- メディア: 文庫
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さて、『溺レる』ですが、男女の様々な”関係”が綴られる8つの短編からなります。まぁ、所謂ドロドロな関係を川上弘美さん独特の空気感とか澱みとかで、心の底のほうを撫で回されるといった感じです。それじゃぁわかんないですね。(笑)気持ちの良い…とか切ない…とか普通の男女の恋愛物語ではないので、読後『超、気持ちいい!夢みたいー!』って思いたい人は読まないほうがいいですよ。ノーマルじゃないですから。(私なりの最大の賛辞です!)
個人的には「さやさや」が好きです。メザキさんと蝦蛄を食べに行くのだけど、深酒をして終電を逃してしまって闇の中をゆらゆらと並んで歩きつづける情景だけが描かれています。歩き続ける中で、サクラがいろんなことを考えるのですけどね、その闇で私もサクラみたいに幼い頃のこととかグルグル考えてみたい。闇とメザキさんの動きのドロリとしたとりとめのない深さの描写が好きです。
全ての物語に言えるのですが、若い頃の淡い恋愛ではありません。ある程度の年齢になった女が、深く想う気持ち。性欲。ほとんどの物語に性的な描写がありますが、これまた川上弘美さん独特な描かれ方をしていますよね。私自身、実はこの辺りの描写は背筋が寒くなっちゃって(私、そういう部分においては超超ノーマルな人なので…笑。というか、若干嫌悪感有りなので…)あまり好きではないところなんですけど、きっとこれもまた魅力のひとつなのでしょう。
ある人が、この本に対する感想で『わからない。まったく理解できない。』と書かれていましたが、溺レるの中の物語は、どれも『理解できない』タイプのものだと思うのですよね。深くのめり込んでは危険なクスリ。私は敢えてさらりと読みますよ。深く深く読んでは危ないですからね。
ちなみに、我がオットの感想は『キモチワルイ。意味がわからん。』だそうですので。(笑)
そうそう、どうして『溺レる』の『レ』がカタカナか?って気になりません?川上弘美さんはカタカナをよく使われるので、何か意識をしてのことなのだろうなぁ…と思っていたのですが、ほぼ日刊イトイ新聞の古いログに川上さんのコメントがありました。
あ、どうして「レ」が
カタカナかっていうことですか?
それほど大きなことではないんですけど(笑)。
語幹だけをカタカナにしたんです。
「溺れない」とか、「溺れるとき」とか、
活用するとき「溺れ」までが語幹ですよね。
だから、活用しない部分をカタカナにして。
そのときに、「オボレ」っていうふうに
語幹を全部カタカナにすれば表記としては
わかりやすかったんでしょうけど、
ええと、「溺」は漢字にしてみたかったので
「レ」だけがカタカナになったんです(笑)。
ふむふむ。『溺』はやっぱり漢字がいいですよねぇ。『溺レる』じゃなきゃ!って気がしますよ。その拘りもまた素敵ですね。
すいません…気付けば、なんか個人的趣味全開な文章になっちゃいましたね。書評じゃないな…。