火の消える瞬間が見たい。

寝る前の歯磨きをしながら、娘がキッチンのカウンターに灯しているアロマキャンドルをじーっと見つめています。

『上から覗いちゃダメだよ。火傷しちゃうから。』私がそう言うと、娘は火を見つめたまま答えます。『火の消えるところ見てみたい。消すんじゃなくて、自然に消える瞬間が見たい。』と。アロマキャンドルは、蝋が溶けて澄んだオレンジ色がゆらゆらと波打って、その下にはアルミの底が見えています。『ねぇママ、このトロトロのやつが全部なくなったら火が消えるんでしょ。何時ごろ消えるかなあ。』

火が消える瞬間か。そうだね、それはママも見たいなあ。きっとすごく素敵なことが起こるんじゃないかなぁ?米粒くらいの火の妖精が飛んで来て、ふーっと、吹き消すのかもよ。

娘は火を見つめます。

我が家では、よく妖精ネタを話すことがあるのです。例えば歯の妖精の話とか森の妖精の話とかね。娘は信じているのか信じていないのかよくわかりませんけれど、頭の中できっと妖精の姿を思い描いていることと思います。


ひとしきり見た後で、娘は言います。『ママ、火の妖精さんが来る前に変な虫が飛び込んじゃったよ。』

え…?見ると、今朝から気になっていた小さな虫がトロトロの蝋のプールに飛び込んでるではないですか…。うーん、突然現実的になりましたな。

虫も、アロマ風呂に入りたかったんでしょう。もう火を消すよ。妖精さんに会うのは夢の中でどうぞ……、おやすみなさい。