来ない人を何時間でも待つ惨めなクリスマス。

とても寒い夜でした。
駅にはたくさんの人がいて、それぞれの目的に向かってまっすぐ前を向いて足早に通り過ぎて行きます。クリスマスですからね、誰もが浮かれているように見えます。


寒いなぁ。

年配の男性が大きなクリスマスケーキを人ごみにぶつからないように大事そうに抱えながら路地へと消えて行きました。きっと、お孫さんでも来ているんだろうな。


寒いなぁ。

ちょっと遅刻してきた彼に怒って見せる彼女。すぐに機嫌を直して腕を組んで駅ビルに入って行きました。どの人の笑顔もまるでドラマの中みたいに…わざとみたいに……スローモーションなんですよ。困ったものです。


待ち人来たらず。

ふぅ…どうしたんだろう?何かあったのかな。いや、何もないのかも。何もないけど来ないのかもしれないな。もしかしたら何時間待ったって来ないのかもしれない…

時計を見ると、待ち合わせの時刻からもう3時間も経っていました。
そうです、私はそのクリスマスの夜に駅の寒い改札前に3時間。当時好きだった彼を待ちながらそこに居たわけです。クリスマスの思い出の中でも一番印象に残っている夜の話。

駅から10分も歩けば彼の家があります。彼の家まで行ってしまったら、きっと自分が傷付くんだろうなぁ…という予感をはっきりと持ちながらも、確かめずにはいられませんでした。

彼の住む部屋は小さなアパートの1階。目をつぶっていても家具の配置までわかる彼の部屋。こたつのある場所にキャンドルが灯っているのがわかりました。そして人影が2つ。

不思議と涙は出ませんでした。来た道を戻り、すっかり人も少なくなった駅で一人。あぁ、一人なんだなぁ。一人って寂しいんだね。

その彼とは専門学校の時に知り合いました。放射線科の先生でした。そのクリスマスの日までの1年くらいの間付き合っていた(つもりだった)のだけど、後から考えれば都合のいい女のうちの一人だったんだろうなぁと思います。若くてバカでしたから、それでも彼から離れたくなかったんですよね。騙されているとわかりつつ付き合うなんてバカだし、終わりがこんな悲惨なクリスマスなんて、惨めとしか言いようがないけれど、それでも、彼と一緒にいた時間のことは勝手に美化していて、今も素敵な思い出ですとか言っちゃうわけです…。

は?と、思われるかもしれませんけど、なんですかね…?一緒にいたその時だけをいい思い出の引き出しにしまってコレクションしているでしょうかね。騙されたという惨めなほうの記憶は、こうして書こうとすれば鮮明に思い出すけれど、普段は封印している。惨めな自分を認めたくないから。惨めな思い出の引き出しは鍵をかけちゃう。私は幸せな恋をしてきましたー!ってね。



来るかもしれない。私のほうにきっと来てくれる。そんな健気な想いを叶えるのはサンタさんでも無理な話だったのですから、その恋はそれで終了。

以来、来ないかもしれない人を何時間も待つなんてことしなくなりました…。学習したんですかね。あ、ちなみに私は人を絶対に待たせない女です!これは断言できます。絶対に先に行って待っていたい。あぁ…結局のところ、待つの好きだったのか…(笑)

あーそういえば、『待つわ』って曲ありましたねぇ。古いですか?懐かしいですか?ぁ、知りませんか…。いつまでも待っちゃう恐ろしい女の歌ですよ(笑)


せっかくの楽しいクリスマスに、辛気臭い思い出話しでゴメンナサイ(笑)惨めな思い出話も、今は昔…というわけで、今年も平凡に家族と幸せなクリスマスの夜を過ごしますよ。


皆様、素敵なクリスマスを!