まきちゃんと『せ・い・で・ん・き』

まきちゃん(仮名、10歳女の子)は、私の左腕を両手で引っ張りました。またいつものように殺菌灯のところまで私を連れていくのだろうな…。殺菌灯はきれいな青い光です。まきちゃんは青い光が大好きで、歯医者に来ると毎回そこに立ち寄ります。一人で見にいったり、私たちスタッフをつかまえて一緒に見たり。だけど、今日はちょっと違っていました。彼女は私の左腕に自分の頬をすり寄せて、何度も何度も…その温度を確かめるようにすり寄せます。小さな声で言いました。『せ・い・で・ん・き』



まきちゃんは、広汎性発達障害と診断されています。

私の職場には、広汎性発達障害高機能自閉症、レット症候群、アスペルガー症候群…など)と診断を受けている子供たちがたくさん歯の治療を受けに来ています。驚くのが、同じ病名であっても彼らの個性が本当に様々であることです。本を読んで勉強しても、その本の中の症状とは似ているようで似ていない…というお子さんも多いです。繰り返し彼らと接することで私たちにようやくわかるその個性も、彼ら中の表面的なごく一部なわけですよね。

まきちゃんは、3ヶ月に1回歯のクリーニングに来ていますが、会わなかった3ヶ月間にいろんな成長をしています。まきちゃんだけじゃなくて、他の子たちもそうです。そして、私たちが見ている部分は彼らのほんの一瞬であって、その間の長い長い時間一緒にいるお母さんがきれい事じゃない日々を過ごしていて……の今日なわけなんだよね。

しみじみ思いました。まきちゃんの今とお母さんの今、生きて迷って今日を暮らしてる。


次にまきちゃんに会うのは春です。