1本の糸

捕まえるのがとにかく大変で、スーパーの売り場を駆けずり回り、キャベツの陳列棚だろうが精肉コーナーのパックの上だろうがおかまいなしにその伸びたつめを立てて走る。かわいらしい飼い犬だったはずのその生き物は、徐々に目は鋭く耳はピンと立ち、追えば追うほど形を変えながら逃げていく。

『うちの犬だから、捕まえなくちゃ!』

母親が奇声を発しながら走る。娘がその後を追う。

この狭いスーパーの売り場を何週しただろうか?グシュッという鈍い音が店内に響いた。どうやら、その生き物は鉄製のワゴンに激突し、左足を負傷したようだ。母親の手に抱きかかえられたその姿は、元のかわいいチワワに戻っていた。左足はブラリと垂れ下がり、一目で骨折していることがわかった。母親は、元のかわいいペットに戻ったことに安心し、獣医に連れていくための準備を始める。

娘に手渡したその一瞬のすきに、再びチワワは走り出す。骨折している左足を気にするそぶりも見せずに、グルグルと店内を走る。

『うちの犬だわ、捕まえなくちゃ!』

娘は母親と反対周りに走り、真正面から生き物を受け止めると、首と足を持って強く左右に引っ張った。

瞬く間に生き物は1本の細い細い糸になる……。


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えーっと、先日ノロウイルスにやられて寝ている時にみた夢でございます。登場したのは我が家の飼い犬、私、娘で、舞台は最寄のスーパーでした……。こんなヘンテコな結末だったのは、多分小川洋子さんの小説を読み返しながら寝たせいかと……。

脳内が影響されやすいのですな。