『まぶた』小川洋子

『ねえ、誰かが盗み見してるわ。』

15歳の女の子が親子ほども歳が離れた中年男性と過ごす時間。女の子が彼の部屋で感じた視線は、男性の飼っているハムスターの目。男性はこう言います。『心配いらないよ。ハムスターだよ。目を閉じることができないんだ。……目の病気でまぶたを切り取ってしまったんだ。』

彼は、昔付き合っていた女性のまぶたが好きだったと言います。その彼女と15歳の少女のまぶたが似ているとも。そして、かつて彼女が弾いていたバイオリンを少女に持たせ、少女のまぶたを触ります。彼なりの愛し方で。

まぶた (新潮文庫)

まぶた (新潮文庫)

短編集の中の『まぶた』という話です。

水で薄めたねずみ色の絵の具をこぼしたみたいに、薄暗いけど透明感のあるベールに包まれた雰囲気はすごく好きです。ゆっくりゆっくり読み進めたくなります。

この中年男性が、また切なくなるくらいダメ男なんですね。そのダメさ加減が哀愁漂いすぎです。基本的にダメな年上男は嫌いではない(笑)ので、きっとこういう人がいたら好きになっちゃうのかもなぁ…なんて妄想しながら読みましたですよ。

ハムスターのまぶたを切り取ったこと、そして前に付き合っていた女性のまぶたの形に執着があること、そして目の前にいる15歳の彼女のまぶたにゆっくりと触れる…。ミステリーを読みなれている人だったら、その男性の異常な雰囲気から、きっとその後に何かが起こることを期待しながら読んでしまうんだろうなぁ…と思いますが、小川洋子さんはその辺りは曖昧にして読み手の想像で、雰囲気を楽しませて終わる。消化不良だ…と思う人もいるんだろうなぁ。うちのオットなんかはその典型ですよ。宮部みゆきさんとか東野圭吾さんとか読んでいる人だったら、『なんだよー、この終わり方!』って思ってしまうかと。

私は、逆にこの中途半端さがたまりません。読んだ後に、妄想膨らみますからね。結果を求めるのではなく…雰囲気にどっぷりっていうのがまた最高ですよ。