小川洋子「原稿零枚日記」

原稿零枚日記

原稿零枚日記

この装丁、すごく好き。

小川洋子さんの本を買いに行こうと思ったわけではなく、娘のハリーポッターを買いに行った時にたまたま目について……、いやもちろん小川洋子さんの作品は以前より好きでしたので、即購入したわけで。

原稿のすすまない小説家の女が書く日記形式の……不思議な小説です。最初は普通の日記のようなのに、どの日もどこからかその境界線のわからぬまま私たちは踏み入れることのできない世界へと入っていく。

個人的には、『母親の靴を一緒に買いに行く日』が響きました。母親がいつもは行けないような高級なお店に食事に行くから……と、上品な靴を買いに2人で百貨店へ行く。母のためにあれこれアドバイスをしながら品定めをし、疲れたから上の和喫茶で休んでからまた売り場に戻ろうよということになる。店の前で何を食べようかと2人で迷っているはずが……。

『お一人様ですか?』

この店員からの一言で、実は母親なんてどこにもいないことがわかる。他の日の日記でわかるのだけど、母親は入院中で寝たきり。もう話もできない状態だったというわけです。

いくつかの日記に、『生と死』『明と暗』『あっち側の人、こっち側の人』が織り込まれた、やっぱり小川洋子さんらしい作品なのかなぁ…と、思いましたです。

あ、そうそう忘れてはいけない部分がありました。『苔専門の料理店!』描写がすばらしかったです。空腹を満たすために、自分で苔を天麩羅にする場面もあるのだけど、青臭くて喉元でビラビラするんじゃないかと思うと、気分が悪くなりました(笑)


いや、そのくらい惹きこまれたという話ですよ。